筆箱の思い出 昭和の学校で使った文具たち
あの頃の小さな宝箱、筆箱
ランドセルを背負って小学校の門をくぐった日、胸いっぱいに希望と少しの緊張を抱えていた方も多いことでしょう。そのランドセルの中には、教科書やノートとともに、学校生活に欠かせない大切な「相棒」が入っていました。それは、鉛筆や消しゴムといった文具をしまう、自分だけの小さな宝箱、筆箱です。
缶の筆箱から、進化するデザインへ
昭和の初めの頃は、金属製の、いわゆる「缶ペンケース」を使っている方が多かったかもしれません。キャラクターが描かれていたり、風景写真がプリントされていたり。蓋を開けるときの「カシャン」という乾いた音も、今となっては懐かしい記憶です。
時代が進むと、プラスチック製の筆箱が登場しました。特に人気だったのは、両面開きになるタイプです。蓋を開けると、鉛筆を一本一本差し込めるゴムのストッパーがあったり、裏側には定規や分度器を入れられるスペースがあったり。マグネットでパチンと閉まる感触が心地よく、機能的なデザインに心が躍ったものです。
中には、筆箱の中に時刻表や九九の表、簡単な世界地図などが印刷されているものもありました。授業中にこっそり眺めたり、友達と見せ合ったりした思い出がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
筆箱に詰まっていた、学びの道具たち
その筆箱の中には、一体どんなものが入っていたでしょうか。
まず主役は、たくさんの鉛筆です。削りたての鉛筆の、あの独特の木の匂い。硬さを示す「B」や「HB」の表示を確かめて、授業中にカツカツと音を立てながら文字を書いたものです。短くなって持ちにくくなった鉛筆に、鉛筆ホルダーを付けて最後まで大事に使った経験をお持ちの方もいるかもしれません。
間違えたところを消す消しゴムも、筆箱の必需品でした。よく消えるもの、デザインが可愛いもの、香りがついているものなど、様々な種類の消しゴムがありました。使ううちに角が丸くなり、小さくなっていく消しゴムの姿に、自分の学習の積み重ねを感じた方もいるかもしれません。消しゴムのカスを指で集めて丸めたり、消しゴムに小さな傷をつけて遊んだりしたことも、遠い日の記憶です。
赤鉛筆と青鉛筆も、必ず筆箱に入っていました。先生が丸付けをするのに使うだけでなく、自分で教科書に線を引いたり、絵を描いたりするのにも使いました。一本になった赤い色と青い色鉛筆は、なんだか特別な存在でした。
他にも、まっすぐな線を引くための定規、角度を測る分度器、きれいな円を描くコンパスなど、算数の時間に活躍する文具もありました。定規の端が欠けてしまったり、コンパスの針で指を刺してしまったりといった、小さなハプニングも懐かしい思い出です。
筆箱が語る、あの頃の学校生活
筆箱は単に文具をしまう道具ではありませんでした。それは、毎日学校へ通う自分自身の証であり、学習に取り組む姿勢を表すものでした。新しい筆箱を買ってもらった時の喜び、友達と筆箱を見せ合って盛り上がったこと、筆箱を机の上に落として大きな音を立ててしまい、先生に叱られたこと。一つ一つの筆箱に、あの頃の学校生活の様々な場面が詰まっています。
筆箱の中にきれいに文具を並べることで、明日の授業の準備ができたように感じたものです。使い込まれて傷がついた筆箱は、自分の頑張りや成長を見守ってくれた大切な存在のように思えたのではないでしょうか。
昭和の時代、子供たちの成長をそっと支えてくれた筆箱と文具たち。その小さな道具一つ一つに、あの頃の学び舎の匂いや、友達との笑い声、真剣に机に向かっていた自分の姿が、鮮やかに蘇ってくるようです。