百円玉を握りしめて 駄菓子屋の小さな冒険
あの頃の駄菓子屋へようこそ
通学路の角を曲がったところにひっそりと、けれど子供たちにとっては磁石のように心を惹きつける場所がありました。それが、駄菓子屋さんです。ガラスの引き戸を開けるたびに聞こえてくる、チリンという鈴の音。店内に充満する、甘くてどこか懐かしい、あの独特の匂い。それはまさに、子供たちだけの秘密基地のような空間でした。
ランドセルを背負ったまま駆けつけたり、友達と連れ立って賑やかに訪れたり。あの頃の私たちは、ポケットの中で百円玉を握りしめながら、今日の予算で何を買おうか、何をしようか、胸をときめかせていました。お店の小さな窓には、色とりどりの駄菓子がずらりと並んでいて、どれもこれもが私たちの目には宝物のように映ったものです。
色とりどりの宝物たち
駄菓子屋の主役は何といっても、あの個性豊かな駄菓子たちでした。袋を開ける前からワクワクするような、カラフルなゼリーや小さなラムネ。紙に包まれた棒状のきなこ棒は、一口かじるたびに素朴な甘さが口いっぱいに広がりました。うめずという、酸っぱいけれど後を引くゼリーのようなお菓子。串に刺さったお団子風のお菓子。そして、当たり付きの飴やチョコレート。
一つ一つの値段は、十円や二十円がほとんどでした。百円玉を握りしめて行けば、まるで大金持ちになったかのような気分で、あれこれと悩んで選ぶことができたのです。ガラスケースの中に並ぶ姿は、まるで宝石箱を覗いているかのようでした。選ぶ楽しみ、食べる楽しみ、そして友達と見せ合いっこする楽しみ。駄菓子一つにも、たくさんの喜びが詰まっていました。
駄菓子屋は小さな社交場、そして遊び場
駄菓子屋は、ただお菓子を買うだけの場所ではありませんでした。そこは、子供たちにとっての小さな社交場でもありました。店先で友達と偶然会って、一緒に何を買うか相談したり、買ったお菓子を交換したり。お店のおばさんや、ちょっぴり怖いけれど優しいおじさんとの短い会話も、日々の楽しみの一つでした。「今日はいい天気だね」「宿題はちゃんとやったのかい?」そんな温かいやり取りがありました。
また、駄菓子屋の軒先は、遊びの拠点でもありました。当たりが出るともう一本もらえるくじ引きは、子供たちにとって真剣勝負。ドキドキしながら引いたくじの結果に、一喜一憂したものです。めんこやベーゴマ、ゴム跳びなど、店先で繰り広げられる遊びを、お店のおばさんが時には温かい目で見守ってくれていました。
小さな空間の中に、お菓子を買う楽しみ、友達と集まる楽しみ、お店の人との触れ合い、そして遊ぶ楽しみ。駄菓子屋には、子供たちの喜ぶ要素がぎゅっと詰まっていたのです。
心の中に残る宝物
時代が移り変わり、あの頃の駄菓子屋さんの姿を見かけることは少なくなりました。しかし、私たちの心の中には、鮮やかな駄菓子屋の風景と、そこで過ごした温かい時間が宝物として残っています。ポケットの中の百円玉の硬い感触、店の鈴の音、甘い匂い、色とりどりの駄菓子、そして友達との笑い声。
あの小さな空間で体験した一つ一つが、今の私たちを形作る大切な思い出の一部となっています。時折、ふとその頃のことを思い出すと、心の中に温かい光が灯るような気がいたします。