あの夏の午後 昭和の縁側の記憶
夏の午後、風が吹き抜ける縁側
夏の強い日差しが降り注ぐ午後、家の中で一番涼しく感じられた場所。それは、軒先から伸びた小さな空間、縁側でした。磨き上げられた木の床や、時には畳が敷かれたその場所は、単なる通路ではなく、家族の団欒やくつろぎの中心でした。
縁側が生み出す心地よい時間
現代の家ではあまり見かけなくなった縁側ですが、昭和の時代には多くの家で見られました。庭木や花壇に面していることが多く、そこから吹き込む風は、何とも言えない心地よさをもたらしてくれました。夏の暑い盛りでも、縁側に座るとスーッと汗が引いていくようでした。
夕暮れ時になると、縁側は夕涼みの特等席に変わります。蚊取り線香のほのかな匂いが漂い、庭からは虫の声が聞こえてきます。大人たちはビール片手に涼みながら、世間話に花を咲かせ、子供たちは宿題をしたり、絵を描いたり、ただぼんやりと庭を眺めたりしていました。冷たいスイカやカキ氷を頬張るのも、縁側の定番でした。
縁側から見えた風景と音
縁側から見える景色は、それぞれの家によって様々でしたが、そこから見る空の色や、庭の草木の緑、そして往来する近所の人たちの姿は、当時の暮らしそのものでした。風が縁側の風鈴を鳴らすチリンチリンという音や、通り過ぎる自転車の音、子供たちの遊ぶ声。それらの音全てが、夏の午後の静けさと溶け合っていました。
また、突然の夕立があった時などは、縁側から雨の降る様子を眺めるのも一興でした。地面に叩きつけられる雨粒の音、雨に濡れて色鮮やかになる庭の風景。雨が上がった後の、湿った土の匂いや草木の青い匂いもまた、忘れられない夏の記憶です。
記憶の中の特別な場所
縁側は、家の中と外をつなぐ曖昧な境界線でありながら、家族や地域との繋がりを感じさせる場所でもありました。近所の人が気軽に声をかけてきたり、通りすがりの人がちょっと腰掛けて休んでいったりすることも珍しくありませんでした。
今は少なくなった縁側ですが、私たちの心の中には、あの夏の午後、縁側で過ごした穏やかで温かい時間が鮮やかに残っています。風を感じ、音を聞き、匂いを嗅ぎ、肌で触れた、五感で記憶した大切な場所。それが、昭和の家庭にあった縁側だったのではないでしょうか。
あの頃の縁側を思い出しながら、少し立ち止まって、過ぎ去った時間に思いを馳せてみるのも良いかもしれません。