暮らしの中心にあった火 昭和の火鉢と七輪の温もり
囲炉裏端から火鉢へ、そして七輪へ
昭和の時代、電気やガスが今ほど普及していなかった頃、私たちの暮らしの中心には「火」がいつもありました。囲炉裏端で家族が集まり暖をとっていた時代から、やがて家庭に広まったのが火鉢や七輪です。これらは単なる道具ではなく、当時の人々の営みや温かい思い出と深く結びついています。
冬の団欒、火鉢の周りで
寒い冬の夜、部屋の真ん中に置かれた火鉢は、家族が集まる小さな太陽のような存在でした。素焼きの陶器や、手の込んだ木製の枠に銅の内張りが施されたものまで、様々な火鉢がありましたね。
赤々と燃える炭の上に鉄瓶をかけてお湯を沸かし、その湯気で部屋がじんわりと温まる。パチパチと炭がはぜる音、ほのかに漂う炭の匂い。火鉢の周りに自然と人が集まり、お茶を飲んだり、本を読んだり、静かに話をしたり。子供たちは火の揺らめきをじっと見つめていたかもしれません。
火鉢の灰の中でサツマイモを焼けば、香ばしい匂いと共にホクホクのおやつができあがり、網を乗せてお餅を焼くのも冬の楽しみでした。手が冷たい時は、そっと火鉢に近づけて暖をとる。火の管理には気を遣いましたが、その手間ひまも含めて、火鉢は暮らしに根ざした道具でした。
香ばしい匂い、七輪の記憶
火鉢が部屋の暖房や湯沸かしに使われることが多かった一方、七輪は主に調理に使われました。食卓の傍らや、家の外、あるいは台所の片隅で、七輪から立ち上る煙と香りは、食欲をそそるものでした。
七輪は、珪藻土などで作られた持ち運びやすいコンロのようなものです。炭を入れて火を起こせば、遠赤外線効果で魚や餅などを美味しく焼き上げることができました。特に、秋のサンマを七輪で焼く匂いは格別でしたね。パチパチと脂が跳ねる音、皮がパリッと焼ける様子、立ち上る煙。家の中に匂いがこもらないように、外で焼くこともよくありました。
お正月に七輪でお餅を焼いたり、するめを炙って家族でつまんだり。手軽に使える七輪は、普段の食事からちょっとしたおやつまで、様々な場面で活躍しました。
消えゆく道具が教えてくれたこと
電気ストーブや石油ストーブ、ガスコンロや電子レンジなど、より手軽で安全な暖房器具や調理器具が普及するにつれて、火鉢や七輪は徐々に私たちの家庭から姿を消していきました。
しかし、火を囲んで温まった団欒や、七輪で焼いた香ばしい匂いは、私たちの記憶の中に温かい思い出として残っています。火の扱いを通して学んだ慎重さや、物を大切にする心。不便さの中にもあった、火を中心とした豊かなコミュニケーション。
火鉢や七輪があった時代の暮らしは、今よりも不便だったかもしれません。それでも、そこには確かに温もりがあり、人と人との繋がりがありました。あの頃の炎の揺らめきや炭の匂いを思い出す時、私たちは失われた大切な何かを感じるのではないでしょうか。