湯気立つタイルと家族の声 昭和の家庭のお風呂の時間
湯気立つタイルと家族の声 昭和の家庭のお風呂の時間
昭和の家庭のお風呂は、現代のようにスイッチ一つで簡単にお湯が沸くというものではありませんでした。それは、一日の疲れを癒す場であると同時に、家族の温もりを感じる大切な時間でもあったように思います。
当時の多くのお風呂は、タイル張りやモルタル塗りの壁、そして据え置き型の浴槽でした。風呂を沸かすには、薪や石炭を使う五右衛門風呂や、ガスで沸かすタイプなどがありました。特に薪で沸かすお風呂は、焚き口に火を起こし、煙突から白い煙が立ち上るのを見守るのも一つの風景でした。パチパチと薪が燃える音、そして次第に湯気が出てくる様子に、お風呂が沸いた喜びを感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
家族が入る順番は、家の慣習によって様々でした。お父さんやお母さんから順に入るところもあれば、子供たちから先にという家もありました。一番風呂の熱いお湯に声を上げたり、最後に入るとぬるくなっていたり。それぞれのお湯の温度に、その日の家族の様子が表れていたように思います。
洗い場には、小さな木製の椅子と、湯を汲むための桶が置かれていました。石鹸は、今のように様々な種類があるわけではなく、牛乳石鹸などが一般的でした。泡立てて体を洗う時の感触や、浴室に広がる石鹸の優しい香りは、今でも記憶に残る方もいらっしゃるかもしれません。シャワーがない家も多く、桶でお湯を体にかける音が響いていました。
お風呂の中では、子供たちはアヒルのおもちゃを浮かべたり、石鹸で遊んだりしました。湯船に浸かりながら、その日あった出来事を話したり、学校の友達のこと、仕事のことなどを家族と語り合う時間でもありました。湯気に包まれた空間での会話は、どこかリラックスしていて、普段言えないようなことも素直に話せたような気がいたします。
冬の寒い日には、お風呂の温かさが身に染みました。脱衣所の寒さから一転、湯船に浸かった時のホッとする感覚。窓の外の冷たい空気と、浴室内の温かい湯気の対比もまた、昭和のお風呂の記憶として鮮明に残っています。
単に体を清潔にするというだけでなく、一日の区切りとして、家族が集まる温かい時間として、昭和の家庭のお風呂は多くの人々の心に大切な記憶として刻まれているのではないでしょうか。湯気と共に立ち上るのは、あの頃の懐かしい思い出です。