昭和ノスタルジー博物館

声と手渡しの温もり 昭和の個人商店での買い物

Tags: 昭和, 買い物, 個人商店, 対面販売, 暮らし

声と手渡しの温もり 昭和の個人商店での買い物

現代の私たちの買い物といえば、広々としたスーパーマーケットで、カゴに商品を並べてレジを通すのが一般的かもしれません。必要なものが何でも揃い、便利な時代になりました。しかし、昭和の時代を生きた方々にとって、「買い物」という行為は、今とは少し違った温かさを持っていたのではないでしょうか。

特に、街角や路地に並んでいた小さな個人商店での買い物です。八百屋さん、魚屋さん、豆腐屋さん、肉屋さん、お菓子屋さん…。それぞれの店には、店主がいて、独特の雰囲気がありました。

八百屋さんの前を通ると、土の匂いや、季節の野菜や果物が山積みにされた瑞々しい香りが漂ってきました。店頭に並んだ品物は、今のように綺麗にパックされているわけではなく、裸のまま積み上げられていることが多かったものです。「おばちゃん、今日の晩御飯は何にするの?」「この大根、昨日採れたてだよ」などと、店主やお客さん同士で言葉を交わしながら、品物を選んでいました。欲しい分だけ量ってもらったり、「これもおまけだよ」と少し多めにいれてもらったり。単に物を買うのではなく、人とのやり取りそのものが、買い物の楽しみでした。

魚屋さんの店先からは、威勢の良い声が響き渡りました。「今日のイワシはピカピカだよ!」「サザエが活きてるよ!」。魚を捌く包丁の音や、潮の匂いも印象深いものでした。どんな魚が良いか、どうやって料理したら美味しいか、店主に尋ねると丁寧に教えてくれたものです。その日の水揚げ状況や、おすすめの魚について話を聞くのも、楽しみの一つでした。

そして、朝早くからカタカタと音を立て、白い湯気を上げていた豆腐屋さん。自転車に箱を積んで、「と~ふ~」というラッパの音を鳴らしながら近所を回ってくる風景もよく見られました。湯気の立つ温かい豆腐を、持っていった鍋や洗面器に入れてもらう。その際に少しサービスで豆乳を入れてくれることもあり、寒い日にはそれが何よりのごちそうでした。豆の優しい匂いが、湯気と共に立ち上る様子は、今も記憶に残っている方も多いでしょう。

どの店でも、店主は顔馴染み。「この間はありがとうね」「お子さんは元気かい?」などと、自然な世間話が弾みました。お金と品物のやり取りだけでなく、人の声、匂い、手触り、そして何より温かい心が通い合う場所でした。品物は、今のようにプラスチック容器ではなく、新聞紙や竹の皮、薄い紙で包んでくれたものです。その包み方も、どこか素朴で温かみがありました。

たくさんの店を回って買い物を終え、手に下げた包みはずっしりと重くても、心は満たされていました。それは、単に食材を手に入れたというだけでなく、その日一日、たくさんの人と触れ合った、温かい時間だったからかもしれません。

今は少なくなってしまった個人商店ですが、そこでの買い物体験は、昭和という時代を象徴する、豊かで人間味あふれる暮らしの一コマだったと言えるでしょう。あの頃の、声と手渡しの温もりを、時折懐かしく思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。