部屋を暖めた赤い炎 昭和の石油ストーブの記憶
昭和の冬景色、石油ストーブの温もり
冬の寒さが身に染みる頃、多くのご家庭で活躍したのが石油ストーブでした。特に昭和の時代には、一家に一台、あるいはそれ以上、石油ストーブが冬の暮らしの中心にあったように感じられます。
朝、目が覚めるとシンと冷え切った部屋の空気。まだ暗い中、灯油の匂いをほんのり漂わせながら、赤い炎を立ち昇らせて部屋を暖め始めるストーブの姿は、今でも鮮明に思い出されます。あの、じわじわと部屋全体に広がっていく温かさは、エアコンとはまた違う、どこか懐かしく、心までほぐれるような温かさでした。
赤い炎と天板の上の風景
石油ストーブと言えば、燃焼筒から立ち昇る、ゆらめく赤い炎が印象的でした。この炎を見つめていると、いつまでも飽きることがありませんでした。反射式のストーブは、壁際や部屋の角に置かれ、その反射板によって熱を効率よく前方に送る仕組みでした。ダルマ型の対流式ストーブは、部屋全体をゆっくりと暖める力強さがありました。
そして、石油ストーブの天板の上は、冬の台所であり、ちょっとした遊び場でもありました。何と言っても、やかんを置いてお湯を沸かすのが定番でした。湯気が部屋の乾燥を防いでくれるだけでなく、お茶を淹れたり、ちょっとした温かい飲み物を作ったりするのに便利でした。湯気が立ち上るやかんからは、シューシューという心地よい音が響き、部屋の温かさを一層引き立てました。
お餅を焼くのも楽しみの一つでした。金網を置いて、ぷうっと膨らむお餅を見守る時間。香ばしい匂いが部屋中に広がり、焼きたて熱々のお餅を家族で囲んでいただくのは、冬ならではの贅沢でした。他にも、アルミホイルに包んだサツマイモを焼いたり、おでんを温め直したりと、天板は様々な用途で活用されました。
灯油ポンプの音と匂い
石油ストーブを使う上で欠かせないのが、灯油の補給でした。大きなポリタンクに入れられた灯油を、手動のシュポシュポと音を立てる灯油ポンプを使ってストーブのタンクに移し替える作業は、子供ながらに手伝った記憶のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。あの独特な灯油の匂いも、石油ストーブと共に冬の思い出として記憶されています。時折、灯油を少しこぼしてしまい、その匂いがしばらく部屋に残ることもありました。
点火は、マッチを使うタイプが主流でした。芯に火をつける瞬間のパッと明るくなる炎。少しドキドキしながら火をつけたものです。後には電池式の点火器も登場し、便利になりましたが、マッチでつける儀式のような作業にも風情があったように思います。消火する時の、フワッと立ち上る少し煤っぽい匂いも、冬の終わりを告げる合図のように感じられました。
家族が集う場所
石油ストーブの周りは、自然と家族が集まる場所でした。外から帰ってきた子供たちが、冷えた手をストーブにかざして暖まる。お風呂に入る前に、脱衣所に運んで部屋を暖めてもらう。夜、宿題をする子供のそばで、親が内職をしたり、本を読んだり。ストーブの炎を見つめながら、家族で他愛のない話をする時間。そこには、ストーブの温かさだけでなく、人の心の温もりがありました。
安全のため、時折換気をする必要がありましたし、火事には十分注意が必要でした。しかし、そうした注意を払いながらも、石油ストーブは私たちの冬の暮らしをしっかりと支え、家族の温かい時間を育んでくれました。
温かい記憶として
石油ストーブは、単に部屋を暖める道具ではありませんでした。それは、冬の寒さを凌ぐための実用品であると同時に、家族が集まる温かい空間を作り出し、様々な思い出を生み出した、昭和の暮らしにとって大切な存在でした。今ではより手軽で安全な暖房器具が普及していますが、あの石油ストーブの炎の色、音、匂い、そしてその周りにあった温かい時間は、私たちの心の中に、大切な宝物として残っています。